写真:田中和人、烏野


基本設定

京都市内はうなぎの寝床で有名なように、間口が狭く、奥行の長い土地が多くあります。

そして、そこに建つ家は隣地境界線ぎりぎりまで幅を広げても間口2間半(4.5m)又は、2間幅という家も。

その間口でたて積にする。階段室を長辺方向にとると、部屋の幅は廊下スペース込で3.6mほど。

また、両サイドの隣地側はほぼ窓がとれない、とったとしても採光は期待できず、通風用。

長細い立体をさらに小分けにしたプランの圧迫感と暗さを何とかしたいと考えていました。

 

そこで普及型の住宅として以下を想定しました。

 

  • 延床面積

核家族で暮らす設定で、ファミリータイプのマンションくらいの20坪ほどに加え、

上下階の移動のため2坪ほど階段面積を見込み、目指すは最小限の延床面積の22~25坪。

 

 

  • 形状、外観

これは京都仕様で考えていたことと、複雑な形はコストがかかりやすいので

間口に沿って建てる長方形の平面で屋根は切妻。

(市内は景観条例で切妻や寄棟など伝統的な日本の屋根形状が求められている地域が多くあります。)

 

 

町屋街を歩いていても圧迫感が少ないのは、前面道路が広くなくてもある程度軒が低いから。

この道路と建物の軒の関係の斜線を守る、平入(軒側から入る)とする。

 

狭い道路に面する外壁は路上の景観の一部。仕上げ材料を、街並みにも配慮し、触れてもいいかなと感じるものにする。

(距離感が近いほどその材料の素材感が気になります。)

 

 

そんな大まかな方針を考えていると、ピッタリきそうなお話をいただいたのです。 


敷地

界隈は商業地区のはずれのお寺の点在する地域。

大通りから少し入った建てこんだ住宅街ですが、お寺がある程度広い区画で点在しており、

その庭が垣間見られたりして、落ち着いた雰囲気でした。

前面道路は5.3m、南側接道。

敷地は間口4.9m、奥行10.5mで北側にコブ付。

この間口にめいっぱい建物を広げるとして、建物は2.5間(4.5m)の幅がとれる計算になります。

 

赤:敷地、黒:建物、白:空地、上:北。
赤:敷地、黒:建物、白:空地、上:北。
写真は土地3区画分。敷地は写真左側の平屋のすぐ隣。見上げた北の空が印象的でした。
写真は土地3区画分。敷地は写真左側の平屋のすぐ隣。見上げた北の空が印象的でした。


建主の決断と特徴

建主の判断で平面計画に係る大きな内容としては、

 

  • 車を持たない(駐車スペースはなし)

 

というものがありました。

 

お仕事上、街中で土地を探されていたこともあり、

車がなくても暮らせる便利なところに住むのだからということで、

広い面積が必要となる駐車スペースは切り捨てるという判断に至っていました。

 

 

建主の特徴としては、

 

  • ご夫婦共に現代美術に携わるお仕事をされている
  • 本を除いて、物は多くない(整理はある程度得意)

 

(設計段階初期にお手持ちの家具の採寸も兼ねて、

建主の生活や趣味を知るため、 ご自宅へお邪魔させていただきます。)

 

 

 


コンセプトブック

建主がご用意下さったコンセプトブックにいくつかのキーワードが示されていました。

 キーワード

  • 立体的な構成
  • 落書きできる壁
  • 籠れる小さな和室
  • 森閑
  • 寒暖による通風、採光の確保
  • 本がたくさん
  • 古今東西のものが混ざるような余地があること
  • 変えられる隙
  • シンプルなライン
  • 駐車場不要
  • 浴室乾燥機

 

その他、目標竣工時期と予算組が示されていました。 


提案

つまり私がすべきことは、

 

 

  • 細長い建物の短辺(南北)方向や上から光を取り込み、

 大きな本棚とアート作品を飾るシンプルな壁を用意する。

 

  • 都会で一番手軽に自然を感じることができる空を見る仕掛け作る。

(自然との一体感を感じる時に人は安らぎを感じると考えています。)

 

そして、一番重要な

  • 間口2間半(4.5m)、奥行5間(9m)、建坪:計12.5坪 の限られた面積をいかに広くするかということ。

 

 

たどりついた答えは、スキップフロアでした。

 

進みながら上がり、廊下と階段を兼ねることにより、動線に使う面積を節約。

 

また、実際に限りある面積を広く感じさせるには、視覚上、別室や外を取り込み、

自分の領域と思える部分までの距離を長くすると有効です。

 

互い違いのフロアから半階違いの別室とその窓を伺えるよう、

階段の吹き抜けを通してほぼワンルームにし、個室は必要な時に区切るよう建具をつけました。

 

階段は蹴込のない形状とし、窓を開けると、この階段の吹きぬけを通して、下階から風がぬけていきます。

といわけで光と風通し問題もクリア。加えて中二階の下に床下収納庫もでき、これは一石二鳥でした。

 

基本的には特殊なことをすると、費用がかかりやすいのですが、上記のメリットを考えると、

スキップフロアにすること、そして、建物全体に影響する数少ない南北の窓は、

重点的に設計し、費用もかけることに決めました。